天皇制廃止の費用便益分析

某友人が「税金の無駄だから天皇制廃止すべき(笑)」みたいなことを言っていた。少なくともネットでは、こういう意見が散見されるように思われる(´・ω・)


成程、天皇の歴史的経緯や必要性といった理念的な話は彼や右翼に任せておくとして、金の話となれば私にも多少の出番があろう。少し面白いテーマだと思ったので、天皇制廃止というプロジェクトの現在価値について考えてみよう(´・ω・)


天皇制が金の無駄か?」という問いは、カネの面から天皇制を廃止すべきか考えるにあたって適切な問いの立て方ではない。天皇制にいくら維持費がかかろうと、それを廃止するのに膨大な追加費用がかかるなら天皇制を廃止すべきではないのだ。天皇制を廃止することの便益(維持費削減)と、それについて生じる費用で判断すべきである(´・ω・)


http://www.mof.go.jp/seifuan21/yosan.htm
内閣・司法警察財務省予算によると、平成21年度予算案(政府案)の皇室費は67億円であり、これは国家予算(88兆)の0.0076%に当たる。似たような規模の予算としては、「こどもの文化芸術体験活動の推進(62億)」「南極地域観測事業(57億円)」等がある。これらが税金の無駄だから廃止すべきだという意見を筆者は聞かない(´・ω・)


毎年同じキャッシュフローを永久に生む債券の現在価値は、キャッシュフローを安全金利rで割ることによって得られる。現在10年もの日本国債利回りは1.25%程であるから、天皇制が生む負のキャッシュフローの現在価値は、67億÷0.0125=5360億。これがおおざっぱに言って、天皇制を廃止することで節約できる税金のはるか将来まで合計した価値であり、(インフレが起きれば価値はここから乖離する)天皇制廃止にかかるコストの現在価値がこれ以下なら、天皇制を廃止することは少なくとも財政的には悪くない決断だと言える(´・ω・)


さてと、天皇制はkanedoが「やーめた」と言ってやめられるものではない。まず憲法改正には国民投票が必要であるからそれ自体にコストがかかるし(ちなみに衆議院選挙には国家負担分だけで750〜800億のコストがかかるようだ)また、天皇制を廃止すべきだと国民に訴えるには広告宣伝費が必要である。以下に日本の広告宣伝費が多い企業トップ100を掲載するが、あくまでこれは一年あたりのコストだ(´・ω・)
http://www.toyokeizai.net/public/image/2009013000156824-1.jpg


さらに深刻なのはテロ対策費である。こんなプロジェクトを始めたら時々渋谷で街頭演説しているような連中が黙ってはいまい。国会議事堂や議員宅はじめ、公的機関の各所に厳戒な対テロ体制を敷く必要がある。911直後にアメリカは約40兆円のテロ対策予算を通した。これは極端かもしれないが、国外からの脅威でなく純粋な国内問題、しかもいつ終わるともしれず(毎年予算に絡んでくる)、立法/行政/司法等の職務にあたる要人が殺されるリスクなども考慮すれば、コストの合計が現在価値にして1兆で済むか、はなはだ疑問である(´・ω・)


以上のことから私は、「天皇制を廃止することによってコスト削減ができる」という議論を退ける。天皇の歴史的または文化的な存在意義であるとか、「皇室外交」の便益であるとか、そういった面から天皇制を擁護する意見には今回興味が無い。というよりも、そんなものを持ち出すまでもなく、天皇制廃止が財政的に得であるという意見が(少なくとも反対派によるテロのリスクが高い現状では)プロジェクトからの撤退費用を考慮に入れない、金勘定レベルでの間違いである。天皇制の重要性とかについて熱く語るのは恥ずかしいけど、天皇制廃止にも抵抗があるみんなは、今度から相手をこうやって説得しよう!(´・ω・)


追記

この議論を延長すると、今後も天皇制が絶対に廃止されないことが予想できる。今回は全てを国家予算の上で考えていることから、「国家が廃止する」という非現実的な仮定になっているが、現実にはそうではない(´・ω・)


なるほど天皇制廃止の便益は年67億の国家予算削減という形で国に生じる。一方、天皇制が廃止されればテロ対策費用を負担するのは国家かもしれないが、それ以前の初期費用(広告宣伝等もろもろ)を負担するのは天皇制廃止論者という個人もしくは団体である。彼らにとっては、便益は非常に薄められるのに、費用は個別で大きく負担しなければならないので差し引き大損であり、おまけに右翼に命を狙われる。仮に天皇制廃止の社会に対する純現在価値が正だったとしても、どの個人もしくは団体でも天皇制廃止のために本気で動くことはないだろう。金と命の無駄である。これは全てを市場に任せると公共財が過小供給になるのと同じ原理である(´・ω・)


私は天皇制を積極的に擁護する立場からこの記事を書いているわけではない。ぶっちゃけどっちでもいい。ただ、「天皇制を廃止すると税金が節約できるという主張は間違い」ということと「廃止派がそこそこいようと、天皇制は残る」ということを示したかっただけである。そして後者が事実であれば、天皇制を廃止すべきか?という問いは言葉遊び以上の意味をなさない。「一年後に東京に小惑星が落下することが判明したのだが、小惑星は落下すべきか?住民の迷惑ではないだろうか?」と議論するようなものだ(´・ω・)