ゼロサムゲームではない

ゼロサムゲーム(一方が勝てば一方が負け、勝ち負けを足すとゼロになるゲーム)でないものをゼロサムゲームと誤解することは、本来得られた利益を視野の狭さゆえに失ってしまうとても損なことです。色々な領域についてそれが言えます(´・ω・`)


ゲーム理論で勝つ経営 競争と協調のコーペティション戦略 日経ビジネス人文庫

ゲーム理論で勝つ経営 競争と協調のコーペティション戦略 日経ビジネス人文庫

ビジネスは一方が勝てば一方が負けるとは限りません。相手からシェアを奪うために値下げすれば相手も呼応して値下げし、結局お互いが損をすることになりますし、逆に成長産業では顧客を取り合うだけでなく、業界全体としての顧客(利益の相和)を増やすために協力することが可能です(´・ω・`)


ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)

ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)

交渉もゼロサムゲームではありません。交渉者が互いの立場を代表して交渉していると思うと、相手の意見を退け自分の意見を通すために意地の張り合いが始まってしまいます。しかし、共通の問題は何で、自分と相手が本当に得たいものは何か(イスラエルが欲しいのが自国周辺の安全であるなら、シナイ半島を頑なに保持しなくても非武装化すれば満足)をお互いが把握すれば、利害のぶつからない選択肢を協力して模索する道もより現実的になります(´・ω・`)


人を動かす 新装版

人を動かす 新装版

もっと日常的な意見の対立や不仲についてもこれは応用できます。むしろ、経済的なプラスマイナスだけでとらえられがちなビジネスよりも、精神的なプラスマイナスのウェイトが大きい日常でこそ、効果を発揮するでしょう。自分の意見を通したかったら、相手の意見と比べて自分の意見がいかに優れているかを論理的に説明しても駄目なのです。我々はだれしも他人から自分の意見が重要だと認めてもらいたいもので、反対する相手の話を真剣に聞き入れ、同意できる部分は素直に同意するだけで、お互いが満足できる同意に近づくのがずっと容易になったりする。たとえその結果がこちらが最初に通すつもりだったものとなんら変わらなかったとしても、相手が満足してるならそれはプラスサムゲームであり、同じ内容を理詰めで納得させるゼロサムゲームよりもずっと優れた解決法です(´・ω・`)


今日この日記を書いた理由は、今しがた読み終わった最後の本を推薦したいからであり、前の二冊を持ち出したのは、我々がゼロサムゲームとしてプレイしがちな意見の対立を、豊富な具体例を示しながらプラスサムゲームに変えて見せたデールカーネギーの手腕に敬服したからです。しかし、この本の内容を生かすためには、ゼロサムゲームとしての真正面議論をする力があるという大前提が必要だと思います(´・ω・`)


著者は「議論してはいけない。相手の言い分を聞きなさい」と言っていますが、これと「議論を避ける日本的妥協」には天と地ほどの差があります。この本を読んで、やはり人を動かすには日本人的なやり方が正しいのだなぁと納得する日本人がいたとしたら、大変な誤読をしていると僕は感じます。日本的妥協は、「まぁまぁ、あいつは子どもなんだから、ここはこっちが大人になって折れてやろう」というもので、相手のプラスを自分のマイナスで埋め合わせるゼロサムゲームです。意見が議論によって研磨されない分、意見正面衝突の議論よりもタチが悪い(´・ω・`)


対してデールカーネギーの勧める人を動かす法は、相手の「認められたい願望」を満足させるうことで、感情的対立を避けつつも自分の意見を通したり、相手に自らこっちの言い分を認めたい気持ちにさせたりする巧みな技術です。健康的な権謀術数と言ってもいいでしょう。解説する言葉の節々にそういうニュアンスが含まれています。通常の議論や権謀術数を超え、自分の言い分を通してこちらはプラス、向こうも心情的に満足してプラスのプラスサムゲームを目指す試みです。本の中に盛り込まれた様々な具体例は、全て最終的にお互い気持よく対立を終えつつも相談者が自分の言い分を通しています。芸術的ですらある(´・ω・`)


というわけでこの本は、僕のように元来議論大好き、理詰めで相手を打ち負かすのが大好き、権謀術数大好きな人にこそ読んでほしい。そういう人が本書の内容を使いこなせるようになれば、本人も関わる人もより一層幸せになれるでしょう(´・ω・`)